第一章

 

 

 

 

 橋本 美奈穂は、この日を境にして、山本美奈穂となった。

「はは、『橋』が『山』になっただけだね」

 

 そういって、夫となった正太郎は笑った。
 美奈穂は、幼い頃から、この2歳年上の正太郎に憧れていた。
 同じ小学校、同じ中学、同じ高校…………そして、同じ大学。

 

 彼女が、そんな憧れの幼なじみに告白したのは、大学1回生の時。
 彼にはその時恋人がいたが、思い切っての強行突破だった。
 正太郎は、そんな彼女にキスをした。

 

「どうして、今まで言ってくれなかったんだ」

 

 翌日、正太郎は、つき合っていた彼女と別れてくれた。

 
 晴れて恋人同士となった2人。美奈穂は何度も何度も、正太郎とのデートを重ねた。
 幸せな時間が続いた。

 ───────が、何故か、彼は彼女の「一番大切なもの」を奪ってくれようとはしなかった。

 それが内心、美奈穂には不満だった。

 

 

 ある日…………………正太郎が大学を卒業した時、彼女は思いきって、その事を尋ねてみた。

 彼の返事はこうだった。

 

「俺にとって、美奈穂はこの世で一番大切な女の子だ。だから、ちゃんと仕事について、生活力をつけて、お前と一緒に暮らせるようになったその日に、美奈穂とエッチしたい」

 

 美奈穂はその答えに、満足以上のものを貰った。

 

 つまり、正太郎は彼女との結婚を、明確に視野にいれてつきあってくれていたのだ。

 美奈穂は正太郎以外の男とつきあった経験はない。もちろん、処女だ。

 

 その彼からの返事を貰った夜も、美奈穂はベッドの中で1人、オナニーした。

 

 昔からの習癖。

 想う相手は、常に正太郎だ。

 
 彼女のイメージの中で、正太郎はその股間にそびえ立つ逞しいペニスを、美奈穂の秘孔に突き立てる。
 妄想の中で、彼女は何度も何度も果てた。
 クリトリスを弾きながら、美奈穂はぴくぴくとベッドの上で1人、アクメを迎える。

 
 枕元には、正太郎の写真。

 

「あぁ…………はやく、わたしを正太郎のものにして…………」

 

 空しい自慰を終えた時、彼女はいつも1人、そう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 そして披露宴。

 

 美奈穂の大学卒業にあわせ、それは執り行われた。

 

「おめでとう! 美奈穂」
「ありがとう」

 高校、大学時代の親しい女友達から花束を受け取り、美奈穂は思わず涙した。
 
 嬉しい。
 嬉しい。
 嬉しい。

 

 祝福してくれる仲間達。泣いてくれる母親。むすっとした顔で、それでもどこか嬉しそうな父親。
 愛する正太郎の手をとって、巨大なケーキに入刀する喜び。

 

 会場に満ちる音楽も、スピーチする友人の冗談も、全てが美奈穂にとっては最高のものだった。
 おそらく、正太郎にしてもそれは同じだろう。

 

 そして、衆人環視の中での、誓いの口づけ。

 

 軽いフレンチキスだったが、それでも美奈穂は恥ずかしかった。
 興奮のあまり、彼女は『女の部分』から、熱いものが滴るのを感じていた。

 

 披露宴の資金は、当初、それぞれの両親が負担すると言ってきてくれていたが、2人はそれを固辞した。この日の為に、美奈穂はアルバイトをして貯蓄していたし、正太郎もまた社員生活の傍ら、倹約をこころがけ、せっせと資金を貯えていた。

 

 本日夜からのハワイ旅行の費用も、2人で出し合った。
 美奈穂は幸せに包まれながら、席上から会場に集まってくれた皆を眺める。

 

(…………ッ!)

 

 その時、彼女は会場の扉の傍に、1人の女の姿を認めた。

 

(まさか…………)

 

「おい、美奈穂。どうした?」

「─────え? ううん…………なんでもないよ。正太郎」

 新郎の気遣いに、彼女は笑みを作って応える。

 

(あれは、鈴木 涼子だ)

 

 もうその姿はない。
 しかし、目の錯覚にしては生々しすぎた。
 …………特に、美奈穂にとっては。

 

 鈴木 涼子。
 
 できれば、一生忘れたい女の名前。
 それは、大学時代、正太郎とつきあっていた女の名前だった。

 

 美奈穂が正太郎に告白した翌日。
 彼は、涼子に別れを告げた。

 

 その後、彼女は、美奈穂に何度も詰め寄ってきた。
 一度は、殴ってきたこともある。
 涼子のつきまといは常軌を逸しており、半ばストーカーのようでさえあった。

 

 やがて、正太郎が自ら話し合いの場をもち、3人で彼のアパートに向かい、そこで何時間も話し合ったのだ。正太郎は謝るしかなかった。涼子はといえば、美奈穂のことをさんざん罵倒し、自分がいかに正太郎のことを愛しているかを訥々と語り、挙げ句大声で泣き出しさえしたが、彼の意志は変わらなかった。とうとう涼子は諦め、正太郎と美奈穂に、二度と会わないといって部屋を立ち去った。

 

「…………………でも、わたしのこと、忘れないで」

 

 ただ、それだけ言い残して。

 


    

 

 

 

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