第七章

 

 

 

「念のため、手足の筋を斬ってから、ふん縛るとするか…………む?」

 
 カインは鼻をひくつかせ、ジョセフィーヌの背後に広がる闇を見つめた。
「──────まさか」

 つられて、ジョセフィーヌも後ろを振り返る。

 そして、その人影の正体を認め、彼女の眼が驚きで見開かれた。
「キ、キニー?」
 全裸ではないキニーを見るのは何ヶ月ぶりだろうか。

 チェニックを身につけた少年は右手に剣を持って、彼女の傍に歩み寄る。
「……………………よぉ、キニー。久し振りだな。あのアバズレ共から逃げてきたのか? お前にしちゃあ上出来だ。もっとも、親父はオメーにブチ切れてんだよ。今更戻るって訳にゃいかねーぞ」

「そうだろうね」

 キニーは静かな口調でそう言った。

 
「キニー! ど、どうしてこんな………は、早く逃げろっ! 馬鹿、お前が捕まったら、レイファ達の居場所が割れる!」

 
 ジョセフィーヌは既に死ぬ覚悟を決めていたが、この気弱で華奢な少年にそれは望めない。

 ちょっと拷問されれば、あっさりと口を割るだろう。

 それは、彼女達全員の破滅を意味していた。

 
「カイン兄さん、兄さんはレイファを八つ裂きにするんだって?」

 
 少年は穏やかな目線を兄、カインに向ける。
「ん? あぁ、そのつもりだ。何しろ、俺様の片目を潰してくれたズベ公だからな。長く、長く、いたぶってから殺す。…………でもまぁ、俺は親父らと違って、お前にゃ別に興味ねぇんだよな。ほれ、キニー、弱虫キニー、さっさと帰ってあのアホ女どものオモチャになってきな」
 しっしっ、とカインが手を振った。
「ごめんね、帰れないよ」
 キニーは歩をとめず、とうとうジョセフィーヌさえ通り過ぎる。
「聞いちゃったから」
 カインは薄笑いを浮かべたまま、剣を構えた。
「なんだよ、死にたいのか?」

 さらに数歩、少年がカインの間合いに入る。

 
「─────じゃあ殺してやるよ」

 
 その数瞬後、片方の悲鳴があがるまで、ジョセフィーヌは何が起こったのかまったく分からなかった。

 手首が飛んだこと。

 切っ先が目玉を抉ったこと。そして…………

 キニーが冷たい表情のまま、うずくまる兄を見下ろした事以外には。

 
「ぎゃぁあああああああッッ!」

 
 失った右手と残った左手で、カインは潰された右目を押さえて叫び続けた。
「こ、ころしてやるぅうッ! どこだ、どこ行きやがったぁああっ、キニー、キニィイイイイッッッッ………ッッ……

 光を失ったカインが、狂ったように吼えたてる。
「毒が塗ってあったんだ、兄さん」

「こ、ころ、し…………
 低く呻きながら、やがてカインは動かなくなった。

 その背を踏みつけ、少年。
「…………いつもの麻痺毒をね」
「き、キニー、あんた」
 唖然とした表情で、ジョセフィーヌはただそれだけ言った。

 あまりの事に、罠に挟まれた足首の痛みさえ感じなくなっている。
「ジョーイ」    

 キニーはジョセフィーヌの足元にかがみ込み、「虎挟み」に手をかけた。

 
「すぐ外してあげるから、ちょっと我慢してね」

 

 

 

 

 

 ぱぁん、という音が、夜中の屋敷内に響く。
 ジョセフィーヌの頬を張ったのはレイファ。その双眸には大粒の涙が浮かんでいた。

 
「どうして一人で出て行ったのッ!」

 
 屋敷の大広間。双子は気まずそうにソファに座ってそっぽを向き、ニナは立ったまま腕組みし、難しそうな顔をレイファとジョセフィーヌに向けている。
「カインから手紙が来たんだったら、ちゃんと皆に言いなさい! そんなにわたし達が信頼できないっていうの!? わたしが、レイを見捨ててカインの罠をやり過ごせ、と言うとでもッ?」

 
 レイファが小一時間ほども怒声をあげる中、ジョセフィーヌはただじっと俯き、黙ってそれを聞いていた。

 
 本気で自分を怒ってくれるレイファの態度が嬉しかった。
 だから、じっと歯を食いしばって俯くしかないのだ。

 今、少しでも気を抜けば、大声を出して泣いてしまう。

 それは、レイファにも他の仲間に対しても失礼にあたるだろう。

 
 それから更に十分が経過し、ようやくレイファのボルテージが下がってきた。
「…………もういい。今度こんなことしたら、あいつらが殺す前に、わたしがあなたを殺してやるからっ!」

 
 バンッ

 
 激しい音を立てて、大広間の扉が閉まり、レイファがいなくなる。
「ジョーイ」
 ニナがそこで初めて、ジョセフィーヌに声をかけた。
「うん」
 呼ばれて、彼女は頷いた。

「もう絶対しない、誓うよ」

 
「うー、レイファったら、怖すぎ」
「あれ、絶対今、生理来てるよ」
 双子がソファの向こうからおどけた口調で言う。

 
「……………………あ、キニーは?」
 思い出したように、ジョセフィーヌ。
「あぁ、あいつは、今レイファの部屋に手足縛って閉じこめられてる。今夜はたぶん、夜通しお姫様に折檻だよ」
「あいつ、いつでもわたし達から逃げられたんだ」
「キニーが助けてくれたんだって?」

 ニナが、信じられないといった顔で尋ねる。
「そう、キニーが助けてくれた」

 
 ジョセフィーヌは、あの少年の剣が達人カインの右手首を断ち切り、返す刃で目玉を刺し抉った手際を思い出していた。あのとき、カインは決して油断してはいなかった。あの一見頼りなげなキニーが、正面からカインを斬り捨てたなどと、この眼で見ていなければ誰が信じるだろう。 

 

「………レイは?」
「部屋で寝かしつけてる。ひどいもんだよ、あれは。口を塞いでる縫い糸は針金がゆってあるし、皮膚に癒着してるから、レイファに手術して取って貰わないと」
 ニナが眉をひそめて。
「そう………」
 それを聞いてほっと息をついたジョセフィーヌは、彼女らに背を向け、部屋を去ろうとする。
「あ、ジョーイ」
「待って、ジョーイ」
 双子が同時に呼び止める。
「なに?」
「いつもジョーイが使ってる「アレ」さ、レイファが『使う』っていってたから」
「いつもジョーイが使ってないアレしか残ってないよ、地下室」
 京香と蓮香は、そういってニヤ、と笑う。
「あっそう」
 片手を上げて、大広間から退出するジョセフィーヌ。
 その顔にもやはり、笑みが浮かんでいた。

 


 

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