第十七章

 

 

 

 

 その後、3人は構内の学食で昼食をとった。

 
 一郎はハムエッグとトースト。麗香は日替わり定食。純は、天丼とトンカツ定食、そしてサラダとチーズケーキをとった。
「よく食べるね…………山泉くん、成長期なの?」
「天丼とトンカツはお腹の赤ちゃんの分です」
 純は、にっこり笑ってそう言った。
「あのさ…………動物性の脂肪分は、分子が大きくて胎盤を通過しないから、全部君の身体に蓄積されるよ」
「あら、そうなんですか。わたし全然知りませんでした」

 しれっとそういって、純はうまそうに天丼をたいらげていく。
「あの、いつもこんな感じなの?」
 純の隣に座った麗香が、定食のご飯を箸でつつきながら尋ねた。
「こんな感じって?」
「ええ、こんな感じ」
 2人がそれぞれ答える。
 

 

 

 

 神崎研究室に戻った後、一郎は食後の煙草をふかしながら、純の話を聞いていた。
「とりあえず彼女、田中麗香さんを、しばらくわたしの部屋に泊めてあげようと思っているのですけれど、どうでしょう?」
「どうって…………君の部屋なんだからさ、自由にすればいいと思うけれど」

 一郎は煙でぽ、ぽ、ぽ、と輪を作るながら言う。
「理由は聞かれないのですか?」
「………大体想像はつくけどね。聞かれたいの?」
「ええ、是非」
「じゃあ聞こう。何?」
「山下拓郎くんは、遠からず麗香さんの例の『ビデオ』のことをあの4人から聞くことでしょう。そうなると、彼女も彼の暴力に巻き込まれる畏れがあります。しばらく学校に顔を出すのも控え、家にも戻らないようにして、流れを静観するのが一番ではないか、と…………こんな感じでよろしいですか、先生?」
 純が、首を斜めに傾けて尋ねる。
「んー。付け加えるなら、その、山下拓郎くんの動向も、一応探っておいた方が良いだろう。というか、既にそうしているのだけれど、今のところは、来るはずの田中麗香さんからの連絡がちっともなくて、イライラしているといったところだね。また、暴力といえば、山下拓郎くんよりも、むしろあの4人の方が厄介だ。僕の予想以上に、拓郎くんは彼らを痛めつけてしまったからね。画面で見た感じでは、彼ら、4人とも睾丸を破壊されていただろう? 今頃、復讐心を燃やして拓郎くんを闇討ちしようとしている筈だ。レイプしたという負い目からか、君、田中麗香さんにその復讐の矛先が向く可能性は低いけれども、拓郎くんの傍にいれば、思わぬとばっちりを被ることにもなりかねない」
「ちょ…………だったら、タクにそのこと、教えてあげないと!」
 麗香が割って入る。
「麗香ちゃん。貴女がそれを教えるの? どうやって? 電話? メール?」
 純が穏やかな口調で言った。
「そ、そりゃ、電話とか」

「そしたら彼は、貴女がどこにいるのか聞いてくるでしょう。何て答える? 『それは言えない』って? 彼、そんな事言われたら、きっと血眼になって貴女を捜すでしょう。わたしの部屋のある家は、彼の行動範囲から少し離れた場所にあるけれど、それだって何かの偶然でばったりって事はあり得る。何も連絡しないでおけば、彼は不安になりつつも、疑心暗鬼のまま、せいぜい貴女の自宅に尋ねていくぐらいなものでしょう」
「あ、そ、そうだ。家にも、連絡しておかないと!」
「連絡はもうしたよ」
 一郎が、新しい煙草に火をつけて。
「正確にいうと、君の家には刑事さんが向かった。『娘さんは暴力事件に巻き込まれ、一時こちらで身柄を預かっています。高校生同士のケンカですが、暴行沙汰を起こした少年はとても凶暴で、娘さんがそれに晒される危険があります。もし不審な者が娘さんを尋ねてきても、娘は入院している、とだけ伝えてください』みたいな感じで」
「け、刑事って、それ、偽物………?」
「いや、れっきとした所轄の警部補だよ。もっとも、僕が個人的に頼んで向かって貰っただけだけれど…………こういう時、顔が広いと助かるね」

 

 なんという手回しだろう。
 麗香は不意に、この2人に空寒いものを感じた。
 

「ま、家には夜にでも電話しておきましょう」
 純が、麗香の背を撫でて言う。
「それより、服を買いにいかなきゃ」

 

 

 

 

 午後、大学を出た純と麗香は、これから泊まり込む少女の為の生活必需品などを買ってまわり、マンションについた頃には日が落ちかけていた。

「ここがそう」
 駐車場に入る手前で、純が麗香に向かって言う。
 麗香は車の窓から呆然とその建物を眺めていた。
 
(これ、高級マンションじゃん)
 
 車から降り、エレベーターに乗って降りたのは最上階。

 純が数字の並んだキーを解除し、カードを通すと玄関の扉がガチャ、と開いた。

 
「…………」

 
 通された中は、先日入ったスイートルームの何倍もの面積を誇る、異様なまでに広々とした空間。

 前面ガラス張りの天井。足が沈み込むほどふかふかした絨毯。

 100インチ級のプラズマビジョン。オーク材の家具一式。

 リビングセットの傍には、ビリヤード台まであった。

 

(す、すご…………)

 
 麗香はただ、圧倒される。
 住む世界が違う、率直にそう感じた。

 

 自分とは人種が異なる生き物なのだ。

 

「純さん、アンタ…………何者なの?」
「何者って言われても。貴女は何者? 田中麗香さん」
 ふざけた口調で、純。

 
 いつか聞いたセリフ。

 

 

 


   

 

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