第六章

 

 

 

 
「…………わたしを、どうする気?」

 

 この女を怒らせてはいけない。

 理恵子はなかば本能的にそう直感していた。

 自分は椅子に座った状態で、両手両足を縛り付けられている。

 この女が、自分にも幸恵のような目にあわせないという保証はどこにもなかった。

 

「どうするって…………まぁ、色々プランはあるんだけどぉ〜。はっきりいって、山川さん、キャラ薄いからさぁ〜。こっちも、あーんまり熱心にどうしようって気が起こらないんだよねぇ。そうだなぁ〜、別に山川さんの処女とか貰ったり、妊娠させても面白くなさそうだからぁ〜………あ、決めた! 決めた! これでいこっ。山川さん、すぐ帰してあげるね」

 

 理恵子は耳を疑った。

 

「………え、いいの?」

「うん。ぜぇーんぜん、いいよ。処女は奪わないし、足とか手とか折ったりしないし、妊娠もさせませーん。はい、誓いまーす」

 わざとらしく片手をあげ、悪子。

「ちょっと眠って貰ってさ、ちゃんと家まで帰ってもらうよ。あ、でも、石田さんのこととか、五木さんのこととか、もちろんあたしの事を誰かに言ったら、えぇっとねぇ、菊池桃華ちゃんみたいになっちゃうかもね」

 

「キクチ………?」

 

 訝しげに眉をひそめる理恵子の前に、悪子は一枚の写真をかざす。

 それを見た瞬間、理恵子は吐きそうになった。

 

 写真には、1人の全裸の少女が写っている。

 

 その少女は石床に横たわり、全身を白い粘液状のもので汚されていた。

 膣孔と肛門がぽっかりと開き、そこからも白濁液がドロドロと大量に溢れ出している。

 しかし、理恵子が目を奪われたのは、少女の身体そのものだった。

 彼女には、両腕、両足がなかった。

 投げ出され、秘部をさらして開かれた両足は膝の少し上あたりから、腕は肩から先が失われている。

 

「こういうの、ダルマっていうんだって。中国とかで今もあるらしいよ。この子、もともと、あたしのクラスメートだったんだよぉ。そ、菊池桃華ちゃん。ま、色々あってさ………目を覚ました時の桃華ちゃんの顔、すっげ傑作だったよ。昨日まであった両手も、両足も、いきなしなくなっちゃってるんだからさ。で、泣き叫ぶ彼女を押さえて、ボーソー族のお兄ちゃん達70人ぐらいが彼女の処女膜をやぶって、中出ししまくりって感じ。もち、妊娠したよぉ〜♭ で、赤ちゃんが生まれた時、あたし、花束もってお祝いにいってあげたんだけどさぁ、桃華ちゃん、壊れちゃってて、虚ろな目でぼぉーっと天井見てるだけなの。こーなっちゃうと、つまんないよねぇ」

「な、なんで…………なんで、こんなひどいこと、するの」

 

 理恵子は、自分の歯がかちかち鳴っていることを自覚した。

 

「なんでって…………やりたいからに決まってるじゃん。桃華ちゃん、タクヤにいろいろちょっかい出して来てウザかったしさ、それにキスとかまでしやがったから。あれ、タクヤのファーストキスだったんだよ。ああ、ダメ。思い出しただけでムカついてきた。もっと酷い目に遭わせてやれば良かったかも。もっと壊れる一歩手前ぐらいでさ、じわじわ、じわじわって、ちょっとずつ………」

 

 イカれてる。

 

 小説や映画でしかお目にかかれない人間が、今、理恵子の目の前に立って笑っている。

 そのクラスメートの少女は、いつも通りの様子で、信じられないことを嬉しそうに喋っていた。

 常人の理解を超えている。

 

「キリコにも、するの?」

 

 怯えた口調で、理恵子。

「キリコって、五木さん? うん、彼女、家、暴力団だって、知ってた?」

「…………ええ」

「やっぱ知ってるか。てゆうか、トモダチだもんねぇ、知らないわけないか。だからさ、五木さんの場合は、結構面倒くさかったよ。色々と下準備。でも、もう終わったから、あと、貴女を帰したら、五木さんと遊んでおしまいだね」

 

(面倒くさかった………?)

 

 こいつは、何を言っているんだろう。

 理恵子は、悪子の正気を…………今まででも充分まともではないと思っていたが…………いよいよ本気で疑いだしていた。

 相手は暴力団の親分の一人娘だ。

 こんな、幸恵や自分のような、一般人を相手にするのとはワケが違う。

 下手をすれば、一生そういった連中から狙われることになるかも知れない。

 

 手が出せるわけがないのだ…………普通に考えれば。

 

「心配してくれなくても、いいよー。山川さん」

 理恵子の心を読んだかのように、悪子。

「あとは眠って、シャワーでも浴びて眠っちゃいなさい」

 そこから先のことを、理恵子は覚えていない。

 口が何かでふさがれ、視界が闇に転じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、山川理恵子は公園のベンチに座っていた。

 薄暗い中、白色灯のライトが理恵子の周囲を照らしている。

 家の近所にある小さな公園。

 夜。

 周囲に気配はなし。

 服は、制服のまま。

 

「!」

 

 反射的に、彼女はスカートの中に手を入れたが、ちゃんとパンツも穿いていた。

 何かをされたような形跡はない。

 信じられないことだが、あの悪魔のような少女は、本当に自分に何も手を出さずに帰したらしい。

 

 警察に言うべきか、と考えたが、瞬間、両腕両足を切断された少女の写真の映像が脳裏をよぎり、やめた。

 自分には関係がない。

 自分とは関係がない。

 関係のない世界の話。

 何も知らない。

 何も見てない。

 明日、学校に行って、幸恵やキリコが来ていなくても気にしない。

 自分は助かった。それだけで十分だ。

 

「おかえりー、帰る前に自分で電話ぐらいしなさい」

 

 帰宅すると、母親があっけないぐらい普通に理恵子を家に迎え入れた。

 リビングの置き時計を見て、理恵子は拉致されてからもう3日も経っている事を知り、愕然となる。

 その間、理恵子はずっと五木キリコの家で寝泊まりしていた事になっているらしい。

 確かに、キリコの家には何度も泊まりにいっているので、そうなっていても両親がそれほど疑わないのは不思議なことではないのかも知れない。

 しかし誰が、どうやって?

 そもそも、今、本当の五木キリコの家はどうなっているのか?

 

 ────────考えてはいけない。

 

 理恵子は喉がからからになっていく感覚を押しのけ、思考を停止した。

 なんだか身体が熱っぽい。

 夕食はとても美味しかった。

 3日間、自分が食事をしたという記憶はない。

 その割には、死にそうな空腹というわけでもなかったのが不思議だ。

 ただ、身体が妙に熱っぽい。

 食事を終えた理恵子は、二階の自室に入って少し休み、それから風呂場へと向かった。

 

 

 理恵子はそこで、自分の考えが恐ろしく甘かったことを知らされる。

 

 

 確かに、悪子は理恵子の処女は奪わなかったし、両腕両足を切断するようなこともしなかった。

 だが、何もしないワケがないのだ。

 

「いやぁ…………いやぁ…………!」

 

 虚ろな声で、か細く悲鳴をあげる理恵子。

 脱衣所の鏡に映った理恵子の裸体は、彼女が見慣れたものとは著しく異なっていた。

 

 まず、下腹部のヘアは刈り取られ、下腹部から秘裂めがけて赤い矢印状の入れ墨が施されていた。矢印の上、へそのすぐ下には横書きで『精液便所』とでかでかと太い黒文字で彫り込まれている。乳房の下、残った腹部の余白には、これまたびっしりと敷き詰めるようにして、『わたしはオマンコ大好き女です。どうぞわたしの腐れマンコをお使い下さい』といった文面が踊っており、両の乳房には乳首を中心に、渦を巻くようにして、長い蛇のようなペニスが写実的に描かれていた。彼女はショックでそれ以上確かめる気力がなかったが、背後や臀部にもその種の入れ墨が、びっしりと刻まれている。

 

 理恵子の制服のポケットには、悪子からの手紙が添えられていたのだが、彼女がそれを読むのは、少し後の話だ。

 

『やっほー、山川さん、あたしの入魂の傑作、気に入ってくれたカナー? もち、あたし、入れ墨とかできないから、図案だけ考えて、あとはプロのヒトにお任せだったんだけどねー。かなり飛んでるっしょ? 服で隠せる範囲にしか入れてないからさ、普通に暮らすぶんには支障ないし、まったく問題ないよねー。こんなステキな身体見ながら、山川さんの処女貰える未来のカレシ、うらやましー! あと、アンダーヘアは永久脱毛しちゃいましたー。カレシ、山川さんにチンポ挿入するたびに、『精液便所』って字、見えたほうが燃えるだろうから〜って配慮でしたー。ではでは、またねー』

 

(いや…………いやぁ…………こんなの、いやぁ……)

 

 手の震えが止まらない。

 歯もガチガチ鳴っている。

 もう死ぬまで裸になれない。水着を着て海水浴にも行けない。

 温泉にも、銭湯にも行けない。

 カレシなんて作れない。エッチなんてできない。

 誰にもこのことを明かせない。誰にも喋れない。言ったら、わたしもあの写真の子みたいにされる。

 

(ひ、ひど、過ぎる………)

 

 泣き出しそうになるのを、理恵子は必死にこらえた。

 泣き出したら、お母さんが入ってくる。

 見られる。

 話せない。

 誰にも。

 誰にも。

 

「あ、悪魔…………」

 

 下唇を血がでるほど噛みしめながら、理恵子は血走った涙目で、鏡に映る自分の姿をずっと見つめていた。

 

 

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