第三章

 

 

 

 悪子は、タクヤと同じ中学へと転校した。


 タクヤの両親は、子供のイジメの話に関しては消極的だったが、学校側との話し合いで、今回の転校が決まったようだ。
 悪子が自分について転校してきたのを、タクヤは不思議に思っていた。けれども、彼女のあの大きな独特の瞳に見つめられると、それだけで少年はもう何も言えなくなる。いや、彼だけではない。他の誰もが、大人でさえ、この一人の少女の一瞥を受けて、正常な精神を保つ事は難しかった。彼女に取り込まれるか、あるいは彼女に敵対するか。

 
 もちろん、悪子の敵になった者の末路は、常に敗走と決まっていた。

  

 すでに、悪子の眼にとまった人物がいるようだ。
 転校早々───────
「お気の毒に」
 京子は一枚の写真を見つめながら、ぽそりと呟いた。
「誰が? 転校早々トラブルに巻き込まれる私が?」
 テーブルの上に両肘をつき、頬を両手で支えた悪子が、おもしろ半分に聴いた。
「もちろん、この方々です」

 
 写真の中には、制服を着た中学生の少女達3人が写っている。

 悪子や、タクヤが転入した中学校の制服だ。
 一人は黒髪長髪の、上品そうな美少女。あとの二人は、ポニーテールとショートカットで、顔は並の上……といったところか。

 
「彼女達のデータを仕入れておいてちょうだい」
「お心のままに……」
 黒髪黒目黒服の美女が、中世の古風なスタイルで、目の前の少女に一礼した。
 昼下がりのリヴィングルーム。
 一般的な家庭に外観は似せてあっても、悪子の家には、どこか異質な印象が漂っていた。

 両親はなく、ただ、少女の命令に従う女性と、テーブルに座る少女だけが住んでいるという、建て売り二階建ての住宅。

 命令に忠実なその女性が去った後、少女はテレビの前のソファに移動し、優雅に凭れかかった。

 その頬には、僅かに朱がさしている。

「ふふ、楽しみ」

 彼女は既に、タクヤと自分との関係を勘ぐり、茶々を入れてきた馬鹿な新しいクラスメート達の処分を脳裏に描きつつも、知らず、秘孔の奥が滲んでいくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーダー格の少女は五木キリコ。

 ポニーテールの、ややそばかす気味の方が山川理恵子。

 ショートカットの、やや大柄でスポーティな方は石田幸恵といった。

 ともに、15歳だ。

 

 彼女…………悪子自身も自覚していたことだが、確かに、今回は少々強引な転校劇だった。

 少年が新しく入ってきたクラスに、悪子は、そのたった4日後に入ってきたのだから。もちろん、悪子はタクヤとなに隠すことなく、以前通り教室でも喋りかけた。少年は驚き、戸惑った。無理もない、同じ学校になるとは聞いていたものの、まさか同じクラスになるとは思っていなかったのだろう。元々内気な性質のタクヤは、まだ数えるほどの男子としか喋っていない様子だったが、悪子の方はといえば、その持ち前の如才のなさを発揮し、すぐにクラスでの独自の地位を確立した。

 

 いつものことだ。

 

 いつものこと。

 

 タクヤは、常々そんな幼なじみの少女をうらやましく思っていた。

 小さい時からそうだった。クラス替えがあるたびに、悪子はその教室のイニシアティヴを握る。

 話もうまい。頭も良い。それに、言うまでもなく、美人だ。

  …………………もっとも。今回に限っていえば、このクラスには悪子の先客がいるようだった。

 

 それが、五木キリコ。

 

 スポーツ万能、成績優秀。

 クラスの中では飛び抜けた美貌の持ち主で、教師でさえ、キリコが通り過ぎた後、振り返らずにはいられない。

 悪子は、文字通りどこか小悪魔的な魅力を持っていたが、キリコの方はといえば、どちらかといえばお嬢様系の魅力を秘めていた

 。クラスの男子は、その殆どが五木キリコを意識していた。アイドル、というよりは、女王のような存在。

 そんな彼女も、いや、そんな彼女だからというべきか…………『同種』である悪子が気に入らなかった。

 同時に、山崎タクヤと同じ学校から、同じタイミングで転入してきたことを、どこか訝しんでもいた。

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん、仲がいいのね。真成寺さん」

 

 屋上への扉を開けて、五木キリコは言った。

 空は蒼天が広がり、気持ちの良い風が流れている。

「…………ええ、幼なじみだから」

 悪子はそう言い置いて、再び弁当に箸をつける。

 彼女の隣に座っていたタクヤは、同じく飾り気のないステンレスの弁当箱を持ったまま、顔を赤らめ俯いた。

 

 昼休み、タクヤは、悪子と一緒に屋上で弁当を食べるようになっていた。

 

 これは、中学生という、思春期が始まったかどうかという時期においては、なかなかに勇気のいる行動である。タクヤは、こういった行動がクラスの男子生徒などに漏れ、それが要因となって、またイジメが起こるのではないか、とびくびくしていたが、反して悪子ときたら堂々としたもので、「そんな馬鹿は放っておきなさい」とぴしゃりだ。悪子は、自分が、この目の前に佇む美少女、五木キリコにとって愉快でない存在であることを自覚していた。だから、屋上にくだんの少女が現れたところで、タクヤほど驚きはしない。

 ただ、「ああ、やれやれ」と思っただけだ。

 

「幼なじみだからってー、ふつー、一緒にご飯食べたりする? 山崎クン、もしか、真成寺さんのカレシなの?」

 

 美少女の言葉に、少年はますます顔を赤らめた。

 悪子はそれを見て、ふと、タクヤの睾丸をひねり潰してやりたくなった。

 もちろん、そんなもったいないことはできない。

 コントロールしよう。

 悪子は瞬時に頭を切り換えた。

 

「それって、五木さんに関係ある話?」

 

 玉子焼きを口に運びつつ、悪子はしれっと言う。

「さあ。でも、興味あるじゃん、おんなじ学校からさ、同じ時期に、同じクラスに転入してくるなんてさ、わたしでなくても気になる、と思うけど」

「そうそ、気になる気になるー」

 五木キリコの背後から、ポニーテールの山川理恵子。

 その横では、ショートカットの石田幸恵が、腕を組んで嫌な笑みを浮かべて立っている。

 三人の少女が、悪子とタクヤが並んで座る、屋上のフェンス際を取り囲んでいる格好だ。

 

(馬鹿みたい)

 

 悪子は思った。

「も、クラスでも持ちきりの間柄じゃん」

「あ、そう」

 石田幸恵の言葉を、にべもなく返す悪子。

「真成寺さんてさ、ポーカーフェイスだよね。山崎くん、でも、さっきから顔真っ赤だよー」

「自白してるよーなもんじゃん」

「ね、理恵子、山崎くんて、こうして見るとカワイくない?」

 石田幸恵が、腕組みしたままポニーテールに話を振る。

「なんかイジメたくなる感じ、とか」

「なんかあれだよねえー、山崎くん、さっきから黙ってばっかじゃん。あれじゃない、真成寺さんがさ、無理矢理、山崎くんを呼びつけてるみたいじゃない?」

「…………………そうね」

 今まで何も言わなかった五木キリコが、綺麗な唇の端をあげて言った。

「見てると、あんまり乗り気じゃないみたい」

 

「そ、そんなこと、ない」

 

 タクヤが、震える声でやっとそれだけ呟く。

 それを傍で聞いた悪子は、ちょっとだけ目を見開き、幼なじみの少年を見た。

「へぇ、そんなことないんだったら、そんなにキョドってるのは、なんでぇ?」

 石田幸恵が、大柄な身体をぬっ、と威圧的に屈めて少年を睨んだ。

 それだけで、もうタクヤは言葉が続かなくなる。

「あやしーよね。あやしー」

「もうヤッちゃってるんじゃね?」

「石田さん!」

 石田幸恵の下卑た言葉を、五木キリコが遮った。

 ただし、その顔は笑っている。

 

「なんでもいいけど」

 

 悪子が、つ、と口を開いた。3人は急に黙って、その弁当箱を閉じた、転校生の少女を見る。

 

「邪魔よ、貴女たち」

 

 無表情で悪子は言った。

 その声には、何の抑揚もなかった。

 石田は険しい顔になったが、微笑みを浮かべたままの五木キリコに、肩を持って止められる。

 3人の中で、石田はとびっきりの武闘派のようだ。中学生の少女にしては、体つきががっしりと安定している。

 おそらく、柔道でもやっているのだろう。

「ええ、仲の良いお二人にとって、確かにわたし達って、邪魔よね。退散しまーす」

 屋上の扉から、3人の少女が帰っていく姿を見て、悪子はこの先の展開が予測できた。

 キリコは顔は笑っていたが、その実、3人の中で一番激怒している。

 また、去り際、石田幸恵が、「ぶっころしてやる」というように、唇を動かしたのも。

 

 少年は、今になって足をがくがくと震えさせていた。

 タクヤは小さい時から感受性が強い。

 悪子が確認した、3人の少女達の悪意を敏感に察知し、怯えているのだ。

 

「あのさ、タクヤ」

「…………え、なに?」

 びく、と子鹿のように反応する少年。

「今日はもう早退しなさい」

「え、で、でも」

「先生には言っておくから。大丈夫。昔から、貧血気味じゃん。てか、今、すごい真っ青だよ。トイレ行って顔見てきてみ?」

 少年はそれでも戸惑っていたが、少女がもう一度、今度は一段と強い命令口調で告げると、申し訳なさそうに、一人屋上の扉から階段へと下っていった。

「大丈夫よ、タクヤ」

 そんな少年の後ろ姿を眺め、悪子は甘く、囁くような声で。

 

「あとは、あたしが」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 正直にいうと、石田幸恵はどうしてこうなったのかが理解できなかった。

 周りは暗い。

 自分は大の字になって寝転がっているみたいだ。寒い。

 背中が冷たい。どこに寝転がっているのか。

 今はいつなのか。

 

 家には………帰っていない。

 

 学校? でも、学校のどこで寝ているのか。

 ふと、寝返りをうとうとして、石田幸恵は固まった。

 手足が動かない。いや、手首、足首が何かで固定されて動けないのだ。

 

「な、何これ!?」

 

 幸恵が呟いた途端、急に世界が閃光に包まれた。

 まぶしい。

 何も見えない。

 

「なーんかさぁ、すっごい爆睡してたね、石田さん。そんぐらい図太くないと、スポーツとかではやっていけないのかなぁ?」

 

 女の子の声。

 

 ────────忘れるわけがない。あのムカつく、いけ好かない転校生。真成寺 悪子。

 目が慣れてきた。

 自分は、何かの部屋の中にいる。

 天井は石造り、壁も煉瓦で敷き詰められている。

 照明器具は蛍光灯が、平行に並んでいる。

 ついで、幸恵はここにきてようやく、自分がおかれている状況を認識した。

 

「おい、なんだよこれ! ふざけんなよ、ボケぇ! 殺すぞォラッ!」

 

 石田幸恵は全裸だった。

 ブラジャーも、靴下も、パンツさえない。

 寒いわけだ。背中が冷たいわけだ。

 彼女は全裸のまま、冷たい床に横たえられ、手足を拘束されていた。

 手首、足首は鉄製のリングで、床に直接縫い止められている。

 中学生3年にしては濃いめの陰毛が、天井にむかって無造作にそよいでいた。

 乳房は大きめで、ついでに乳輪も大きい。

 乳首は陥没しているようだ。

 

「わお、すっごい元気。いいよー、石田さん、案外、おっぱいでかいねー。撮ってるよー」

 

 幸恵の視界に、真成寺悪子の姿が現れた。

 彼女は蒼いワンピース姿で、手にビデオカメラを持っている。

 そのレンズは、床に縫いつけられた全裸の少女を撮影しているようだ。

「こらッ、撮るんじゃねぇよ、クソガキ! いっぺん、やっちまわねぇと分からねぇのかよ!」

 裸でいることの羞恥より、悪子への憎しみが勝っている。

 今、手足の戒めが解かれたら、幸恵は瞬間このカメラを持った少女に襲いかかり、メチャクチャに顔面を殴りつけるに違いない。

 実際、彼女は中学一年の時、柔道部で、いちゃモンをつけてきた上級生の少女を半殺しにしたことがある。

 表沙汰にはならなかった。

 上級生の少女は右目が失明寸前にまで損傷し、唇から鼻にかけて、一生消えない傷が残ったが、その全ては、五木キリコの親がもみ消してくれた。

 幸恵は、どうして自分がこんな状況にいるのかイマイチ飲み込めなかったが、こんなことがいつまでも続く筈はない。

 

 必ず、復讐のチャンスはやってくる。

 

 顔をメチャクチャにして、ついでに、知り合いのヤンキーに犯しまくってもらおう。

 あの、山崎とかいうびくびくした男子もめちゃくちゃにボコって、病院送りだ。

「おい、こら、聞いてんのか、ボケェ! おめぇだよ、おめぇ、早くこれ、外せや、本気で殺すぞ!」

「うわ、怖。殺すぞ、だってぇ。あたし、殺されるのイヤだから、ほい、解除」

 

 かしゃんっ

 

 突然、石田幸恵を拘束していた鉄の輪が、金属音とともに2つに割れ、それぞれ地面に吸い込まれて消えた。

 全裸の少女は、信じられない、といった顔で、むくりと上体を起こした。

 部屋は、8畳ぐらいだろうか。

 床はフローリングで、周りには何もない。

 窓もなく、唯一の出入り口は、悪子の背後にある扉だけのようだ。

 

「馬鹿か、オマエ」

 

 幸恵は、殺意を宿した目をそのままに、低く体勢をおとした。

 そんな彼女を、悪子はあくまでニコニコ顔で眺めている。

 

 

 

 

 

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